おれは中有に迷っていても、妻の返事を思い出すごとに、瞋恚に燃えなかったためしはない。

 物語は、一つの側面からのみ語られるからこそその切実さが際立つが、別の視点から語られることでまったく別の様相を呈する場合もある。起こった出来事はただ一つであるが、そのただ一つの事実が意味するものはそこに関わった人の数だけあり、また、同じ数だけ物語も存在する。こうやって事実は、個人のフィルターを通して歪曲していき、やがて、その歪曲された物語が事実となっていく。たとえそれが本当の事実とは違っていようとも。 

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