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芥川龍之介

【書評・ブックレビュー】 『点鬼簿』 芥川龍之介

僕は墓参りを好んではいない。若もし忘れていられるとすれば、僕の両親や姉のことも忘れていたいと思っている。が、特にその日だけは肉体的に弱っていたせいか、春先の午後の日の光の中に黒ずんだ石塔を眺めながら、一体彼等三人の中では誰が幸福だったろうと考えたりした。

 「絆」という字が元々ポジティブな意味を持つわけではないが、「家族の絆」も必ずしも常に良い形でアウトプットされるわけではない。目には見えず、言葉では表せない、背後に通っている切っても切れない綱が、時には「きずな」となり、時には「ほだし」にもなる。 あるときをさかいに 続きを読む

【書評・ブックレビュー】 『トロッコ』 芥川龍之介

塵労につかれた彼の前には今でもやはりその時のように、薄暗い藪や坂のある道が細細と一すじ断続している。

 フランスの哲学者ジャネーによれば、「主観的に記憶される年月の長さは、年齢の逆数に比例する」という。子供のころの2週間ほどの体験は、当時の色彩が失われてもなお、その後の生涯において象徴的な意味を持つことがある。色が失われても、感情は残る。明確な引き金もなくふと思い出されるその記憶は、「今」と「これから」を暗示しているのかもしれない。

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【書評・ブックレビュー】 『藪の中』 芥川龍之介

おれは中有に迷っていても、妻の返事を思い出すごとに、瞋恚に燃えなかったためしはない。

 物語は、一つの側面からのみ語られるからこそその切実さが際立つが、別の視点から語られることでまったく別の様相を呈する場合もある。起こった出来事はただ一つであるが、そのただ一つの事実が意味するものはそこに関わった人の数だけあり、また、同じ数だけ物語も存在する。こうやって事実は、個人のフィルターを通して歪曲していき、やがて、その歪曲された物語が事実となっていく。たとえそれが本当の事実とは違っていようとも。 

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【書評・ブックレビュー】 『蜘蛛の糸』 芥川龍之介 

しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着致しません。

 芥川龍之介の短編である『蜘蛛の糸』は、あらすじだけ聞けば、いましめや教訓めいた物語のようだが、これは「人間の性」と「人生の無常観」を象徴したようなものであるとも読むことができそうである。

 かん陀多は、悪行の限りを尽くしていた中、「気まぐれ」によって蜘蛛を助けた。 御釈迦様もまた、かん陀多にチャンスを与えようという「気まぐれ」によって蜘蛛の糸を地獄に垂らした。

 きっかけはどちらも些細なことかもしれないが、 続きを読む

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