其れはまだ人々が「愚」と云う貴い徳を持って居て、世の中が今のように激しく軋み合わない時分であった。

 いつの世も、いにしえの世に憧れを抱いている。より健康で、より賢明で、よりも寛容な、失われた人間本来の有様が、そこにはあった・・・・・・。実際、そんな理想郷はいつの時代にも存在しなかったが、それでいて、いつの時代にも戻るべき場所として求められ続けた。

 しかし、そこで我々が失った(とされる)ものは「健」「賢」「寛」ばかりではない。 続きを読む