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【書評・ブックレビュー】 『コンビニ人間』 村田沙耶香

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純粋に聞いているだけなのに、ミホの旦那さんが小さな声で、「やべえ」と呟くのが聞こえた。

他人を理解しようと思っているつもりでも、ほとんどの人は、どうすれば相手を自分の理解の範疇に収めることができるかということに苦心している。自分の世界にとって「異物」と見做したものに対しては考えることをやめ、うまく解釈しようとすることに努めることで、自分の世界の秩序を保とうとする。つまりは、思考や意味がそもそも存在しないものがシステムであり、そのシステムの中に意味を見出そうとするのが人間の本質なのである。

システム自体が潔癖で健全であればあるほど、その世界は確固たるものになり、やがて人はそこから抜け出せなくなる。それは、周りが見えなくなるとか、他人の意見に耳を貸さないとか、そういった類の現実逃避ではなく、純粋にごく自然の流れとしてそうなっているのかもしれない。

社会はある堅牢なシステムを得たときから、新しい部品を調達しながらそのシステムが何かしらの形で機能しなくなるまでずっと、その秩序を維持し続ける。その社会が壊れるまで、ずっと。

「価値観」という宗教

2016年上半期、第155回芥川賞を受賞した村田紗耶香さんの『コンビニ人間』。現在でも週3回、コンビニでアルバイトを続けていて、「クレイジー沙耶香」との異名を持つ彼女の独特の視点から描いた世界は、現代の人々の価値観にどのように響くのだろうか。

『コンビニ人間』の主人公・古倉恵子は、幼い頃から周りとは違う「普通」ではない言動を何の躊躇もなく繰り返し、「普通」へのあこがれを持ちながら成長していく。大学1年生になり、コンビニエンスストアでのアルバイトを通して、ようやく、他人に求められる普通の声の出し方や表情を学んでいく。それから18年もの間、コンビニ店員を続けてきた恵子は、コンビニに必要とされる人間(部品)になることに成功していた。

ある日、恵子がようやく手に入れた「普通」を脅かしていく新人のアルバイト・白羽と出会い、奇妙な共同生活を始めることになる。

「この世界は、縄文時代と変わってないんですよ。ムラのためなにならない人間は削除されていく。狩りをしない男に、子どもを生まない女。現代社会だ、個人主義だと言いながら、ムラに所属しようとしない人間は、干渉され、無理強いされ、最終的にはムラから追放されるんだ」

そう言い放つ白羽を完全には否定できないでいる小倉。社会の構成を保つために、その部品となる人が入れ替わっているに過ぎないという光景を、彼女はコンビニの中に認めていた。その中で生きる術を見つけた小倉と、削除されつつある白井は、根底では似ているのだろう。

白羽は、変わろうともがき身動きが取れなくなっていく一方で、小倉は、変わらないことに生きる意味を見つける。一定の音に囲まれた空間は、不条理な雑音に苛まれるよりは、きっと心地いいものなのかもしれない。

あるのは価値観や文化の多様性ではなく多様なシステム、人は変わらない

人は、自分が所属している集団の中で、自分の立ち位置を見つけ、役割りを築き上げていく。現代社会では、その集団のカテゴリーが細分化され、多くのコミュニティーができ、仕事・趣味・嗜好も多様化してきている。似ているものは受け入れ、異質なものは排除するという排他的な集団意識は、日本の社会で顕著であるが、それ自体が許容されればされるほど、人は自分の所属している集団から身動きが取れなくなっていく。

小説の中では、「普通」ではない小倉と白羽に対し、「普通になれ」と彼らを否定してくれる人が何人かいるだけ救いである。現実では、他人の価値観を否定することは避け、一定の距離を置くことで、人間関係を円滑にしているように見せることが多いが、他人を理解しようとせずに、自分の価値観の中で解釈し、「それでもいい」と意味付けされていく世界になってしまっては、安全過ぎるがゆえに、生命の危機を感じるくらいに恐怖を感じる。

それをユーモラスに描く、著者のクレイジーさにも、ぞっとする。

システムの形骸化の行く末

本来あった意味や理由が抜け落ち、システムだけが残った世界では、「コンビニ人間」が大量発生するのではないだろうか。現代でも、そういった問題は各所で顕在化されてきているが、そのシステム自体が壊されることは未だほとんどない。 しかし、そこには「価値観の違い」の一言だけでは解決できない問題を孕んでいるように感じる。時代によって表層的な形が変わっているだけで、実は、縄文時代から現代までずっと存在し続けているムラ社会のシステムは、この新しい時代に来てようやくその問題を浮き彫りにし始めているところなのかもしれない。

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